カテゴリ:小品( 7 )

東京駅丸の内

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 待ち合わせは18時半。
 あの時は秋だったけど、生温い雨が降って、まるで春のような気だるい日だった。
 ほんの30分前、傾いた太陽の上には夏を迎えようというクリアな空が拡がっていた。
 私は向こうへと歩きながら、今日一日と今とこれからの境目を見る。

(2007年4月14日撮影)
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by okayau | 2007-04-17 21:22 | 小品

週末の風景

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いつも行っている八百屋の2階に布団が干してあって、あのおばちゃんはマンゴー色の布団で寝ているんだね、と隣で並んで歩いている人は言う。
霧の中に一直線に並ぶ街灯はどこに続く道か分からなかった。
駅前には大きなリクガメを抱いて歩いているおじさんがいて、すれ違う人は皆振り返って「カメだ」「カメよ」と言っている。カメは白くて大人しく、おじさんの腕の中でゆったりと呼吸をしていた。
ちょっと気に入った帽子を見つけたけど今日は買わない。
夜、コンビニ横の細い路地で、猫が両脇の小さな子猫たちとならんでこっちを見ていた。

(2006年8月6日撮影)
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by okayau | 2006-08-09 14:25 | 小品

めぐる季節

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 初めての恋。私は彼の隣でいつも笑っていた。
 何もかもが鮮やかで彩りに溢れ、身体を貫く陶酔に胸を震わせた。
 私の笑顔はいつも、ただ彼にだけに向けられていた。

 それからいくつかの恋をして、私はその度誰かの隣で笑っていたけど、あの人の隣で見せていたもっともっと本当に純粋で、闇を知らない、絶大な笑顔には及ぶはずがないといつも思っていた。
 もう初めての恋ではないのだから、もう二度とあの笑顔は出来ないのだと思っていた。

 だけど、私は今、笑っている。私たちにはいくつもの過去があって、けれど、だからこそいっそう無邪気に満面の笑みをこぼす。
 この、若葉の芽吹く季節に。

「嘶いているね」と、吹く風に彼は言った。

(2006年5月4日撮影)
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by okayau | 2006-05-18 10:20 | 小品

上を向いて歩こう

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 僕らが、次の言葉を口にするのもしんどく、ひと言ひと言を漏らすように呟くその隙間を、場違いにマーチングバンドの浮かれた音が埋める。
 君が真っ直ぐ前を見つめる先は穏やかな春の景色で、場違いなのはきっと僕らの方なのだろう。

 電車を降りて、ひとりになったとき、昼間の騒々しい音が頭の中に蘇る。

  上を向いて歩こう 涙がこぼれないように
  思い出す春の日 一人ぼっちの夜

(2006年4月9日撮影)
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by okayau | 2006-04-10 09:20 | 小品

桜提灯

君が無邪気に話しかけてきたただそれだけのことで
この私の視界の灰色の曇り空に
ぽっとしずかにピンクが点る

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(2006年4月7日撮影)
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by okayau | 2006-04-07 17:38 | 小品

花曇り

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君と春を過ごしたことはないのに
この景色を並んで見たことがあるような気がするのは、
去年のこの季節も君を想いながらこうして桜を見上げていたからだろうか。
それともいつか、遠い未来の予感だろうか。

あの日から僕の右手はいつも君につながっているような気がすると言ったら、
君は笑うだろうか。
ちょっと困った顔をして。

(2006年3月27日撮影)
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by okayau | 2006-03-27 18:56 | 小品

料金所にて

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 今のこの浮き足立った楽しさが永遠に続くように錯覚して酔いしれられるほどには、私たちは若くはなかった。
 「何を考えてるの?」
 と彼が聞いたのは別に私のことが知りたいからではなく、突然おとずれた沈黙を懸念しているのだと私は知っている。それで私は、少し前から窓に映るようになった自分の顔から視線をずらして、「ちょっと疲れちゃった」と彼に微笑むのだ。
 
 滑らかにブレーキをかけて開いた窓から、さっきまで降っていた雨を感じさせる湿った春の空気がしのび込んでくる。
 FMがこの先に続く道の渋滞を告げている。

(2006年3月18日撮影)
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by okayau | 2006-03-21 11:20 | 小品